yururi-furu’s blog

ゆるりと続けるフルコミ営業

茶碗の電話、シーツの電話(10月17日・中編(本日妻が亡くなりました㊵/㊿))

 

2023年7月14日から 4日間、実家

の青森に帰省する予定でした。久しぶり

にゆっくりしたかった。でも直前に僕が

体調を崩してしまったために行けなくな

ってしまいました。

そのことを長男に LINEすると

「俺が代わりに行ってくる。家族で」と

いう電話。

子供のときから青森の実家が大好きな長

男は、お祖母ちゃんと叔父さんが寂しが

らないようにと、すぐ有給休暇の申請を

したそうです。


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(青森の)奥入瀬渓流  金魚ねぶた  遮光土偶

 

「お父さん・・・お父さん・・・。ごめ

んね、わたし死のうと思うんだ」

突然の妻の言葉に、僕は激しく動揺した

んですが、それを顔や態度に出さないよ

うに必死に、言葉を抑えながらゆっくり

と話しかけました。

「眠れなかったの。今日は心配な気持ち

が大きくなったのかな」

 

「ううん、だってね。わたしはもう何年

も入院しているじゃない。そして病気・

・・、あれっ、何の病気だっけ・・・」

「うん、いいや。そしてね、病気も全然

治らないし、家に帰れたとしてもみんな

に迷惑をかけるし・・・」

 

このときは妻が入院してから 6ヶ月弱。

精神的な負担が大きすぎて、入院してい

る期間、病名すら忘れてしまっている。

 

入院期間と病名、そして病気が治ってい

て、明日一般病棟に移れることを伝えま

した。

驚いたような不思議な話を聞いたような

顔で僕を見つめる妻。

 

「そうなんだ。治ったんだ。忘れちゃっ

たみたい」

「忘れないようにメモするから、もう一

回教えて」と安どの表情を浮かべる。

 

目の前にある A3の紙に妻が書きこもう

としました。でもそれは、検査結果や治

療について書いてある紙です。

紙があるのは分かるのですが、何か書い

てあるのか白紙なのかは見えていない。

そのために紙を 1枚ずつめくって、メモ

できるかを一緒に確認していきました。

 

そのときに、一度置いた内線電話の子機

を持とうとしたら、妻はまた分からなく

なってしまいました。

ベッドの上のテーブルに置かれた子機。

そして時々間違えるテレビのリモコン。

その二つをじっと見ても分からない。迷

いに迷って・・・・・。

 

食事が終わっていたお茶碗を持ち、耳に

当てました。

「もしもし。もしもしお父さん」

「あれっ、聞こえない、なんで?」

 

「それは違うよ」とゆっくり話す僕。

 

お茶碗を置いた妻は周りを見渡しました

が、ほとんど見えていないようでした。

そして自分が座っているベッドのシーツ

をじっと見て、その一部をつまみ上げ、

クルクルと巻いて筒状にして話しかけて

きました。

「なんでこの電話は持てないの?ベッド

にくっついている」

「もしもし、もしもしお父さん。お父さ

んの声が聞こえないよ。聞こえない!」